第12章 嘴平伊之助
「では、ごゆっくり」
着物をきっちりと着こなした女将さんが襖を閉める。
伊之助は部屋につくなり大の字で畳の上に寝転がっていた。
「あ!浴衣あるよ!」
私は押し入れから紺色の和柄が描かかれた浴衣を2枚取り出し、1枚を伊之助の顔の上に落とした。
「ほら、着替えようよ、いつまでもその服じゃ暑いしさ」
「…お前も着んのか?」
伊之助は私が顔面に落とした浴衣を払い除けて、私に尋ねる。
「もちろんでしょ、じゃあ着替えてくるから」
私は洗面所の方にむかって扉を閉めた。
ーそう言えば自分で着れるのかな…伊之助
手早く着替えをすませ、洗面所からでると、伊之助は我流で浴衣を着こなしていた。
浴衣は普通、はだけさせないものだが、いつもの制服みたいに胸板はおおっぴろげに出したままで、あまり浴衣の機能を果たしていなかった。
「伊之助、ちゃんと着れてないよ?」
私はあぐらをかいて座る伊之助の前にかがみ、胸元の浴衣を手繰り寄せようとしたら、伊之助に手首を掴まれた。
「てめぇ…誘ってんのか?!」
「ふぇ?」