第11章 伊黒小芭内
ゴー…
ドライヤーの音だけが洗面所に響く。
「あっ、ごめんなさい…忘れてください!」
「いや、俺も悪かった…」
私の心臓は再び暴れだし、手汗まで滲んできた。
どうしよう、こんなんで夜なんて出来ない…!
ドライヤーの音が止み、伊黒さんがクシで丁寧に髪をとかしてくれている間、私たちは喋らなかった。
お互いがお互いを意識し始めたのだ。
「ありがとうございました、伊黒さんもお風呂に…」
「ああ、行ってくる」
私は洗面所から出て、扉をしめる。
そしてすぐに善子にLINE電話を入れた。
『おー、どしたのー?』
陽気な善子の声を聞き、私は少し落ち着いてきた。
「今、伊黒さんお風呂なの…」
私がそう言っただけで、善子は電話の奥でにししと笑っていた。
どうやら全てを理解したようだ。