第11章 伊黒小芭内
「髪が濡れていたな、乾かしてやる」
伊黒さんに手首を掴まれ、再び洗面所に戻ると、ドライヤーをコンセントに指し、電源をオンにして、私の髪に風をあてた。
「伊黒さん!自分でやります!お風呂入ってきてください」
「構わない。俺がやりたいんだ」
伊黒さんの繊細な指が私の髪をなめらかに通っていく。
ーあ、伊黒さんの匂い…
ドライヤーの風に舞い上がって、伊黒さんの家のシャンプーの匂いがする。
「うふふ」
嬉しくてつい、声に出して笑ってしまった。
「どうした?」
「伊黒さんと同じ匂いがするのが嬉しくて」
「…それは俺も同じだ」
「え…」
私は後ろを振り返る。
「ひゃ!」
すると、伊黒さんの指が耳にあたり、私は甲高い声をあげてしまった。