第8章 「The hole」宇髄天元
ーなんか胸騒ぎがする
俺は風呂から上がり、晩酌をしようとしてビールを取り出したが、胸にひっかかるような感覚を覚えて、そのビールをシンクの傍に置いた。
ケータイにちらりと目をやり、手に取って沙織のケータイ番号をうってみる。
ー何ともなければそれでいい話。
「…もしもし、沙織?」
『…』
応答は無かった。
『ドン…おい!』
しかし、電話口の奥で男が怒鳴っている声がする。
俺は全身に冷や汗が流れて、血が揺れた。
「沙織?!何かあったのか!おい!沙織!」
必死になって俺はケータイに向かって叫び、沙織の応答を待った。
『せん、せい…助けて…』
聞こえた。
今にも消えてしまいそうな沙織の声。
「おい何があっ『出てこいよ雌豚!!』『いや!やだ!!痛い!!』
沙織の悲鳴を最後に、通話は切れた。
俺は一瞬立ちすくみ、すぐに放たれた野鳥のように外へと飛び出していた。