第8章 「The hole」宇髄天元
「今日は…帰ります」
首にアザがあるようでは炭治郎や善逸に気付かれてしまう。
「待て」
宇髄先生が踵を返そうとしていた私の行く手を阻むように、廊下の中央から動かない。
「言う前から諦めんなよ、お前はこのまんまでいいの?」
「諦めてなんかない!!」
私はなりふり構わずその場で大きな声を出した。
何も知らないくせに、何も分かってないくせに。
「いや、お前は諦めてんだよ。どんな事情があるかなんかは知らねぇ。でも、どうにかなることかもしれねぇのに、お前は目の前にある差し伸べられた手を自分で見て見ぬふりしてんのよ」
宇髄先生は何も言えなくなった私の元に歩み寄り、そっと頭を抱えて、全身を抱きすくめた。
「苦しいなら言えばいい。辛いなら吐き出せばいい。まだお前は踏み外したらダメだ」
そこ言葉が引き金になって、私の目からは大粒の涙が溢れ出た。
こんなに泣いたのはいつぶりだっただろう。
誰かの胸に抱かれて私は小さく嗚咽をもらしながら泣いた。
「歩けるか?」