第1章 *テニプリ*仁王雅治*
誰もいなくなった教室で1人呆然と立ちすくす。
一度に色んなことが起きすぎたせいか、まだ頭が追いついていない。
教室から見てたあの儚げな佇まいの幸村先輩に確かに私は惹かれていたのかもしれない。
それが恋なのかと言われたらわからないけれど。
でも実はそれは幸村先輩ではなくて、何のためにそんなことをしていたのかわからないけれど変装した仁王先輩で…。
いや、もうこの時点でわけがわからない。
本当に何のために?
というか変装という域を超えてもう瓜二つだったのだが。
仁王先輩…あなたは一体何者なの?
窓を開けるとそよそよと気持ちのいい風と活気のある声が入ってくる。
コートに目をやると、おそらく今度こそ本物であろう幸村先輩と、仁王先輩の姿もあった。
幸村先輩が部員に指示を出している。
走り込みに行く生徒は…きっと1年生だろうか。
コートでは何人かがすでに試合を始めていた。
一番端のコート。この教室から一番近いコートには仁王先輩の姿があった。これから試合なのだろうか。
先程の言葉が頭をよぎる。
「見てて」って、なんで私が見てないといけないの。
そう思った矢先、仁王先輩がこちらを見ているような気がした。
私はとっさに目線を外す。
いくら一番近いコートと言っても十分離れてるので目が合ってたとしてもわからない距離のはずなんだけど…
なぜか、そらしてしまった。
再び目を向けるとちょうど仁王先輩のサーブ。
あ、ネットにかかった。失敗したのだろうか。
もう一度先輩がサーブを打つ。
今度は綺麗に相手コートへと入る。
次々と点数を決めていく先輩。さすが全国2連覇中なだけある。
先輩はまったく相手を寄せ付けない。
そしてあっという間に試合は終わってしまった。
試合が終わり、仁王先輩がこちらを振り返った。
いきなり振り向かれると困る。
私はまたも少しだけ視線を下げた。
すぐに先輩は行ってしまったけれど、どうして私に試合を見せたかったんだろう。
騙して悪かったな。お詫びに俺の試合を見せてやろう?
…というのは、違う気がする。
確かに仁王先輩はとても上手だったし、かっこいいって思った。
動くたびに長い髪がゆらゆらと揺れて…
それにしても先輩の銀髪は目立つ。
どこにいてもすぐ見つけられそうだ。
「きれい…だなぁ」
私はしばらくその姿を目で追っていた。