第1章 *テニプリ*仁王雅治*
あれから数ヶ月。
立海テニス部の全国三連覇の偉業は夢に潰えた。
初めて声が枯れるほど応援して、そして涙を流したあの決勝を私は一生忘れないだろう。
秋の気配を感じるそんな日。
3年生たちは勉強で忙しくなり部活に顔を出す回数も減ってきていた。
聞き慣れたあの副部長さんの声も、ベンチに佇む幸村先輩の姿も消え、美術部の教室から見える風景は少しだけ以前とは変わってしまったように見えた。
寂しさを感じながらも私はいつもの窓際の席で絵を描いている。
「さっきから全然進んどらんな。外ばっか見て、モデルは隣にいるってのに失礼な奴じゃ」
隣の机に気怠そうに突っ伏しているのは私の彼氏。
全国大会が終わってからというものよく美術部の教室へ来るようになった。
先輩は何も言わないが、きっとまだ心に燻っているものがあるんだろう。時々寂しそうな目をしてコートを見ている。
「いいから仁王先輩は寝ててください。自然にしてる先輩を描いてるんですから」
そう言うと「仁王先輩?」とジロッとこちらを睨みつける。
「…雅治」
「よくできました」
先輩はそう言うと意地悪な笑顔を浮かべながら頭を撫でてくる。
いくら彼氏と言えども先輩を呼び捨てにするのはまだ気がひけるのだが、仁王先輩は名前で呼んで欲しいみたいだった。
「」
ふと名前を呼ばれ先輩の方を見ると頬杖をつきながらにっこりと微笑む。
「どうかしましたか?」
「いや?…早く完成した絵が見たいのぅ」
先輩は優しく笑った。
コートから響く掛け声を聞きながら私たちの時間はゆっくりと流れる。
これからもずっと隣にいてほしい。
そう、あなたをえがきながら思った。
「そういえばおまんはいつになったら俺に愛の言葉を囁いてくれるんじゃ?」
「え!?あ…まだおあずけです!」
「俺はのことこんなに好いとるのに。悲しいぜよ」
「うぅ…だって雅治…絶対からかってきそうだもん…」
「そんなことするわけないじゃろ」
「もう…
雅治…のこと…好き…だよ」
教室の片隅で
初めてのキスをした。
…end