第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「え!?」
私は思わず大きな声を出してしまった。
「なんじゃいきなり大声出して」
もうこの人は誰なのかとか、幸村先輩が2人いたこととか、そんなことよりもさっきの2人のやりとりに疑問が残ったのだ。
「幸村先輩、1ヶ月ぶりの部活…って言いましたか?」
銀髪男はコクンと頷く。
「ずっと部活には出ていなかったと…?」
再びコクンと頷く。
いや、それはおかしい。
だって私はずっとこの教室から先輩の姿を見ていたから。
そう言うと語弊が生じるが、それは確かだ。
「幸村は少し体を壊してな、ここ1ヶ月くらいはずっと入院生活しとったぜよ。昨日ようやく復帰してきたところじゃ」
「入院!?」
嘘だ。この男、私をからかっているんだろう。
大体誰なんだこの人は。見た目も雰囲気もチャラチャラと胡散臭さが滲み出ている。
「…嘘ばかり言わないでください。この絵!私が約1ヶ月ほどで描きあげた絵です!
ずっと…幸村先輩が部活に出ているのちゃんと見てますから!」
知らない男の人を相手にここまで声を荒げたことは今までにない。そのせいか、心臓がやけに早いのを感じる。
男は少し驚いた表情を浮かべると、
「すまんのぅ。騙してしまって。おまえさんがずっと見てた幸村は…実は俺じゃ」
と、少しだけ寂しそうな顔をして言った。
「さっきのモデル料も冗談じゃき。悪かったぜよ」
幸村は俺…という言葉に理解が追いつかないが、とりあえず謝ってくれているのはわかった。
その言葉が本当なら、先程私が目にした2人の幸村先輩は見間違えでもなんでもないということだろうか。
「…あの、どうしてこんなことを?」
単純に疑問に思ったことを聞いてみた。
銀髪男はゆっくりとここから見えるテニスコートに目をやると、
「熱い視線を感じたんでのぅ」
そう言ってニヤッと笑った。
なんだか恥ずかしくなり顔が赤くなるのを感じた。この男も何か誤解をしているのか。
「熱い視線って!…別にそういう目で見てたわけじゃ!私は絵が描きたくて!」
ニヤニヤした顔で私を見ている。
「まぁまぁ、そんなに照れなさんな。可愛いとこあるんじゃの。」
「違います!大体、あなたは誰なんですか!?」
恥ずかしさのあまり多少口調が荒めになってしまった。