第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「こら、仁王」
入ってきたのは、幸村先輩。
「…え…?」
最近絵の描きすぎで確かに視力の低下は著しいが、ここまで見間違えるものだろうか?
それとも幻覚か?
私には今この教室に幸村先輩が2人いるように見える。
「幸村先輩が…あれ…?」
「ごめんね驚かせてしまって」
そう言ったのは先程入ってきた幸村先輩。
「こら仁王、下級生を騙して…しかも俺にイリュージョンして悪いことは辞めてほしいな」
"におう"と呼ばれたその人物は私が少し目を離したすきにすでに幸村先輩ではなく…他の人物に成り代わっていた。
銀髪の髪を結った初めて見る人。
さっきまで幸村先輩が2人いると思ったら今度は知らない人が目の前に現れて、私の頭は完全に追いついていない。
「君…大丈夫?」
幸村先輩が心配そうに顔を覗き込んできた。
ハッとした私はとっさに目の前の銀髪の人物に指をさす。
「…この人!さっきまで幸村先輩だったのにいきなり変わって…!?」
「おまえさん、夢でも見てたんじゃないか?幸村が2人いるなんて…恐ろしいことじゃのぅ」
銀髪の男はそう言いながらにやにやと笑っている。
「夢…?」
本当に私の見間違えだったのだろうか。
それとも、ずっと絵を描き上げる為に幸村先輩を見続けていたせいで幻覚を見てしまったのか。
自分はおかしくなってしまったのだろうかと一抹の不安を覚える。
すると幸村先輩は銀髪の男の肩を叩く。
「仁王ちゃんと謝って。君もごめんね?
俺はもう部活に行かないとだから…」
幸村先輩はまるで慣れているかのように言うと、じゃあと言って部屋を出て行こうとした。
「幸村、久しぶりの部活じゃのう」
銀髪の男がそう幸村先輩の背中に話しかけた。
「ああ、1ヶ月ぶりかな?体鈍ってるだろうなぁ」
幸村先輩はそういうといつもの優しい笑顔で去っていった。