第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「できた…」
ある日の部活動の時間。
私はついに絵を完成させた。
窓から見える木々や、グラウンドにテニスコート。
練習をする数人の部員たちとベンチにはあの幸村先輩。
風景画としてはまだまだいまいちかもしれないけど、初めて一枚の絵を描きあげたことにとても満足していた。
しばらく自分の絵を見つめ気になるところを少し手直しなどをしていた時だった。
ポンと肩を叩かれる。
私は斎藤先生だとばかり思って、絵が完成した嬉しさと早く見て欲しい気持ちとで満面の笑みを浮かべながら後ろを振り返った。
「……え」
そこにいたのはまさかの幸村先輩。
何も言葉が出ずフリーズする私に、先輩はにっこり笑うと私の目の前に手のひらを出した。
「モデル料、もらいにきたよ」
サーっと血の気が引く感覚を覚える。
いや、まさか本当に来るとは思っていなかった。
怯えながら目の前の人物を見つめる。
その優しい笑顔は私が今まで見ていた笑顔そのもの。
だが、それとは裏腹に差し出された手の平に恐怖を感じる。
「ま、待ってください!」
必死に振り絞って出した声は裏返っていた。
よくドラマで見る借金取りを目の前にしている人がちょうどこんな感じだろうか。
「この絵が…賞を取れたら払います!」
もちろんこんな素人が賞を取れるなんて微塵も思っていない。けど、咄嗟に口から出た言葉がこれだった。
もう自分が何を言ってるのかすらわかっていない。
絵に描いていた人物が…遠くで見るだけだった人が突然目の前に現れ、しかもモデル料を請求され…
上級生と話すのすら初めての1年の私にはとにかく怖い。ただそれだけだった。
目の前の人物は私の言葉に少し驚いた顔をしながら
「なかなか面白い奴じゃのぅ」
そう呟いた。
その時、美術部の扉がガラッと開く。