第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「さん」
ぼけっと外を眺めていた私は突然名前を呼ばれてびくっと体を硬直させる。
「どう?進んでる?」
美術部の顧問、斎藤先生だった。
「はい、なんとか…」
描き途中の絵に指を這わせ苦笑いしながら答えた。
「さんは風景画だったよね?どれどれ」
そう言いながら私の絵を覗き込んだ。
「あら…素敵」
先生はそう優しく微笑みながら言ってくれたが、できれば完成した絵を見て欲しかった。
なんだか誤解されそうで…。
「幸村くんだね」
風景画として、窓から見える風景を描いていた私の絵にはもちろんテニスコートとベンチが描かれている。
そしてそのベンチに1人の男の子を描いていた。
名前まで知らなかった私は少し驚きながらも先生に尋ねる。
「幸村くん?っていうんですか?」
「そう。彼のクラスの美術も担当してるから知ってるわよ。たまーにここにも遊びにくるし、それに彼はテニス部の部長もやっていて…わりと有名人よ?」
テニス部の部長…
あの全国大会2連覇の立海テニス部の部長?
「青春ね〜」
先生はいっそうその笑みを強くしながら去っていった。
ほらやっぱり変な誤解を…。そう思いながら心の中で言い訳を繰り返す。
そう、私は別にこの人だけを描きたかったわけじゃない。
他にもまわりに数人の部員も描くつもりだった。
なぜこの人を一番に描いたかっていうとそれは、きれいだったから。
本当にあの人が強豪テニス部の部長なのかと疑問に思うほど優しそうな微笑みを浮かべ、私にはとても可憐に映った。
単純に一番目にとまった人だった。
そうか、あの人…部長さんなんだ。
それならきっとテニスもとても上手なんだろう。
ふと、先程の先生の言葉が蘇る。
ここにも遊びに来るって言ってたような。あの人も、美術、好きなのかな。
この絵を見られたら何勝手に描いてるんだって怒られるだろうか。
いや、あんな優しそうな部長さんがそんなこと言うはずないか。
あの優しい笑みでモデル料の請求されたり?
いやいや、そんなことないない。
と、頭を振り私は再び筆を進めた。
頭の中はいつのまにか"幸村先輩"のことでいっぱいになっていた。
どうしてあんなに儚げなんだろうか。
とても絵になる。
私は夢中で絵を描いていて後ろで先生が誰かと会話しているのすら気付かなかった。