第1章 *テニプリ*仁王雅治*
幸村先輩はありがとう。と一言言うと「じゃあ、気を付けてね」と、手を振ってくれた。
私もペコッと頭を下げると仁王先輩の手に引かれその場を立ち去った。
手を繋いでるところを思いっきり見られたと思うのだが幸村先輩は何も触れなかった。
仁王先輩も特に態度を変えることなくいつも通り。
ただ、先程から無言で少し早歩きな仁王先輩に不安になり名前を呼ぶと「…ん?なんじゃ?」と、どこか上の空のような返事が返ってきた。
「どうかしたんですか?」
「…いや、なんでもないぜよ」
その返事になんとなく嘘だろうなと感じたものの、仁王先輩は常に本音を話してくれるような人ではないと感じていたので私もあえてそれ以上は突っ込まなかった。
しかし無言で歩き続けていてその重苦しい雰囲気に耐えられず、何か話題はないかと探した結果、先ほどの幸村先輩の名前を出した。
「幸村先輩、こんな時間までどうしたんですかね?」
すると、繋がれていた手がぴくっと反応した。横を歩く先輩の顔を覗き込むと
「幸村のことが気になるんか?」
と、初めて会った、私をからかっている時の声色でそう言った。
「え、そうじゃないですけど…どうしたのかなーって…」
悪いことをしたわけではないのに、謎の罪悪感に襲われ私の言葉尻は徐々に小さくなっていった。
しばらくの間気まずい雰囲気の中歩いていると目の前の信号が赤に変わり2人は歩みを止める。
「あの…仁王先輩」
再び耐えられずに話しかけると先輩はまっすぐ私を見つめてくる。
私が言葉に詰まっていると先輩は私を力強く抱きしめた。
1つ、気付いたことがある。
仁王先輩は本音を言葉で伝えることが得意ではない代わりに、こうして態度で表してくれる。
初めて会った時からそうだ。
頭をよく撫でてきたり、抱きしめられたりはきっと仁王先輩なりの愛情表現なのだと気付いた。