第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「え!?どうして…」
珍しく仁王先輩がソワソワしているように感じる。こんな姿を見るのは初めてだった。
「…暗くすれば俺もちゃんと本音で話せると思ったんじゃが」
好奇心だろうか?あんなに恥ずかしくて先輩の顔すらまともに見られなかったのに今は真っ直ぐ先輩の目を捉えてる。
私と目が合うと先輩の方が先に視線をそらすことに少しだけ優越感に浸ってしまった。
それと同時に湧いてきた未知の感情。
「ちゃんと聞きたいです。仁王先輩の本音」
そう言うと先輩は、はぁ…とため息をつきながらうなだれている。
「まぁ、なんだ…幸村が羨ましかったって話じゃったかのう。…うーん、上手く言えんな」
自分のことを話すのが苦手なんだろうな。と感じた。
そんな先輩の腕の中で、大人しく静かに先輩の声に耳を傾ける。
「幸村になってる間ずっとおまんが見ててくれたのはわかってた。幸村が好きなんだろうなってこともなんとなく気付いとった。けど…いつしかその視線を俺のものにしたいと思うようになったんじゃ」
そう言って先輩は私の顔に触れる。
熱を持ったその手の感触に思わず顔を伏せると先輩は笑った。
「ちょっとだけそのままでいてくれんか」
そう言うと私の頭を自分の胸に押し付け身動き取れないほどきつく抱きしめられた。
先輩の心臓の音だけは嘘をつかない。その気持ちを正直に話してくれている。
それに合わせ自分の鼓動も重なり合いお互いの熱も相まって目眩のようなまどろみに溶け込むような感覚に陥った。
先輩のシャツをギュッと握りしめると、ようやく意を決したかのように口を開く。
「おまんが好きじゃ。本当に、好いとうよ」
とどめを刺された気分だった。
先輩の体の熱も心臓の速さもその想いも全て伝わってくる。
先輩の本当の気持ちがしっかりと私に届いた瞬間だった。
私を抱いていた腕の力が少し弱まる。
「…急にすまんな。怖いじゃろ?こんなこと言うのはめちゃくちゃ格好悪いんじゃが。俺も余裕なくてのぅ」
静かにそう言うと優しく頭を撫でてくる。
「…そんなことないです。ちゃんと、伝わりました」
先輩はそうか。と笑った。
顔を上げれば初めて見る優しい微笑みがうっすらと照らし出されている。
私だけに向けられた笑顔。いじわるじゃない笑顔。
「…仁王先輩のこと、考えてみます。たくさん。考えてみたい…」