第1章 *テニプリ*仁王雅治*
先輩の隣にそっと座り無言で固まっているとまた優しく頭を撫でられた。
それは今まで何度かやられた中でも一番優しいものであった。
「触られんの、嫌か?」
低い、小さな囁きにも似た声で先輩が言う。
「…ずるいですよ」
「ん?何がじゃ?」
そうやってとぼけて本当にずるい人。
私が幸村先輩を好きなのを知っててこんなことをして惑わせてるんでしょ。
好きだとか言って意識させて。
悔しいけど胸が張り裂けそうなほど苦しい。
「…わからないです。どうして、先輩がこんなことするのか」
「わからんか?屋上で俺が言ったこと、忘れてないじゃろ?」
忘れるわけがない。そのせいでこんなに苦しんでいるのだから。
「あんなの信じれないですよ。また私のことからかってるのかなって」
私の声が震えていたのが伝わったのか、頭を撫でる力が少し強まった。
「…さっき気持ちをかきまわすなって言ってたじゃろ?そこんとこ詳しく聞きたいんじゃが」
え?と先輩の方を見ると逆光で表情は見えないが口元は少しだけ笑みを浮かべているように見えた。
「あれ、は…だって私、幸村先輩のこと…」
「だから俺は奪いたいんじゃ。おまえさんの気持ち、こっちに向かせたいから。少しは揺らいでくれたってことでええんかの?」
「そんなこと…っ。まだ信じられません」
ずっと頭を撫でていたその手が肩に降りた。
「じゃあ、もう一度抱きしめてもええか?」
肩にぎゅっと力が入る。
「…だめ」
心のどこかに幸村先輩への想いを残したまま私は仁王先輩の腕に抱かれることなんてできない。