第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「…悪かったぜよ」
私は解放された。もういつでも帰れるはずなのに、体が言うことを聞かない。
そうだ、まだ言いたいこと何も言ってないから。
決して帰りたくないとかじゃ、ない。
涙でいっぱいのその目で仁王先輩を見つめる。
先輩は心なしかバツの悪そうな顔をしている。
「仁王先輩。もう…私の気持ち、かきまわすのやめてください…」
うつむきながらそう言うと、先輩は無言で立ち上がりドアの前まで行ったかと思うと視界が急に真っ暗になった。
「え!?なに…!?」
部屋の電気を消されたらしく部室が暗闇につつまれる。
ドアから漏れる小さな外灯の明かりだけが薄っすらと先輩の横顔を照らしていた。
「おまえさん知っとるか?人間ってのは暗い場所の方が落ち着いて本音で話せるそうじゃ」
いきなりそう言われても。しかし妙に納得してしまう。
暗くなったことで仁王先輩の顔もよく見えないし、恐らく真っ赤であろう自分の顔を見られる心配もない。
少しだけ胸を撫で下ろすが、この状況が何か変わったわけではない。
先輩がこちらに近付いてくるのがわかり身構えていると、椅子に腰を下ろし「おまんも座りんしゃい」と、手を引かれた。