第1章 *テニプリ*仁王雅治*
やっぱり部室にいるのか。
あまり待たせるのも悪いし早く行って終わらせたいのだが、さっきからずっと緊張で体が震えている。
いつのまにか辺りに人の気配がなくなり大体の生徒は帰ったのか、シーンと静まり返る空間にただ1人佇んでいた。
もう行かないと。
私は意を決してテニスコート近くにある部室へと向かった。
辺りはもう暗くてテニス部の部室だけが明かりを灯っている。
やっぱりまだ中にいるんだ。
耳を澄ませてみたが、中からは何も聞こえない。
コンコンと軽くノックをする。
「おー、入りんしゃい」
仁王先輩のその声に一気に緊張感が増し震える手でドアノブをひねった。
ドアを開くと、そこにはイスにもたれかかっていかにも待ってました風な面持ちでこちらを見る先輩の姿があった。
「…ちょっと遅いんじゃないんかのぅ…」
「…待ってたんですか?」
「そりゃあ待ってたぜよ。約束したじゃろ?
それに、おまえさんは必ず来ると思っとったからの」
「本当に勝手な人ですね」
私のその言葉にニヤリと笑うと、ちょいちょい、と手でこっちにこいと手招きをしてくる。
鍵を返さないといけないし、素直に従い先輩の近くまで行くとポケットに入っている屋上の鍵を差し出した。
それを受け取ると、よくできました。と私の頭を撫でる。
「!!…もう、仁王先輩はすぐそうやって!」
きっと今、私ひどい顔してる。顔に熱を感じる。
言いたいことはたくさんあったはずなのに、先輩を前にすると何も出てこない。
それよりも早くこの場を去りたい。
もう帰ります!と背を向けた瞬間、腕をガシッと掴まれた。
「なっ…!?」
振り返れば仁王先輩の初めて見る真剣な顔がある。
「もう帰るんか?」
なんでそんなことを聞くの。
帰りたい。
もう少しお話ししたい。
離して。
もうちょっと一緒にいたい。
嫌い。
嫌いなのに。
自分のぐちゃぐちゃな感情が溢れ出し自然と涙が溢れる。
その姿にさすがの先輩も焦ったのか驚いた顔でパッと手を離した。