第1章 *テニプリ*仁王雅治*
体操着のポケットに手を突っ込みながらゆっくりと階段を降りてくる仁王先輩。
その目はしっかりと私を捉えていた。
目を逸らしたいのに、逸らせない。
早く教室に戻りたいのに、体が動かない。
まさにヘビに睨まれたカエル状態。
どんどん近づいてくる。
私は顔を伏せてゆっくりと一歩を踏み出す。
その時、頭にポンと手が触れる。
え?と思い顔を上げた時には、仁王先輩は何事もなかったかのように歩いていた。
先輩の隣を歩く眼鏡の男の人が心配そうに私を振り返り、
「すれ違いざまに女性の頭に触れるなんて…!」と怒っていた。
なんだか少しだけ拍子抜けした気分になる。
絶対何か言われるんだとばかり思っていたのに、頭をポンと叩かれるだけ。
呆然と立ち尽くし、少し乱れた髪を直していたら先ほど一緒に見学していた男の子が後ろからやってきた。
「…やっぱ保健室行った方がいいんじゃない?めちゃくちゃ顔赤いけど…絶対熱あるよそれ」
「…大丈夫…ありがと」
顔なんか赤いわけない。そう自分に言い聞かせながら私は教室へと走って向かう。
最後の授業が終わり生徒たちはそれぞれ部活へと向かって行く。重い足取りで美術部の教室へと行き、窓からテニスコートを覗くと早くも1年生たちがコートの準備に取り掛かっていた。
3年生たちはまだきていないようだ。
きていたからといってどうするわけではないが、少しだけ胸をなでおろした。
「あれ、ちゃん。早いね」