第1章 *テニプリ*仁王雅治*
「大丈夫?」
と隣で同じく見学していた男の子に声をかけられた。
「めちゃくちゃ具合悪そう。保健室行った方がいいんじゃない?」
具合が悪いかと言われれば確かにそうだ。
胃が痛い。
原因はもちろん仁王先輩。
「ああ、ううん!大丈夫だよ!ちょっとお腹痛くて…」
力なく笑ってみた。
「ふぅん」
会話はそこで終了。気まずい空気が流れたところで授業終了の鐘がなる。
玄関で下駄箱に靴をしまっていると、3年生の軍団がゾロゾロとやってきた。
体操着を着ているということは次が体育なのだろう。
3年生か…と、色々嫌なことを思い出す前に早歩きで教室に戻ろうとした。
「ちゃん」
下を向いて歩いていた私は前方から聞こえた声にパッと顔を上げる。
幸村先輩だ。
ニコッと笑いかけて手を振っている幸村先輩を見て、ずっと強張っていた表情が少しだけ緩んだ。
「幸村先輩!次、体育なんですね」
私はかけ寄り先輩の顔を見上げる。
「うん。俺は見学なんだけどね。そろそろ体を動かしたいから先生に頼んだんだけど、まだダメだって言われちゃった」
そう言って笑う先輩は肩から上着を羽織っていて、それが儚さにさらに拍車をかけていた。
「無理しないでくださいね」
先輩はニコッとありがとうと言って手を振って玄関の方へ向かっていった。
私も笑顔で手を振り返し後ろ姿をしばらく見送っていたが今一番会いたくない人物にその瞬間を見られていた。
心臓がズキ…と、痛んだ。