第1章 *テニプリ*仁王雅治*
体育の見学中、じっとしていればしているほど思い出すのは仁王先輩の腕の感触。
耳元で囁かれた、あの言葉。
こんなことなら気を紛らわせる為に動いてた方がよかったか。と少し後悔する。
弄ばれているだけだ。
先輩が私を好きだなんてありえない。
私の反応を見て面白がってるに違いない。
そう思いながら体育座りをしている自分の膝に顔を埋めた。
思い返せば初対面でいきなり私をからかってきたような人だ。
真に受けるだけ相手の思うツボだろう。
しかし先ほどから胸の痛みはおさまることはない。
なぜなら、ポケットには先ほどの屋上の鍵が潜んでいるから。
嫌でもまた仁王先輩に会わなければいけないのだから考えるだけで緊張して胃が痛い。
先輩の顔をしっかり見ることはできるだろうか。
「…仁王先輩のばか」
思わず口からこぼれ落ちる。この感情が一体なんなのか。幸村先輩とはまた違うこの感情に戸惑いを隠せないでいた。
美術部の部室からいつも見ていた幸村先輩。
綺麗で儚げで、どんどん惹かれていって…
好きなのかもって思い始めていたのに…。
「違う!あれは幸村先輩じゃないんだった!」
そうだ。その事実を聞かされた時は私も混乱していてすっかり忘れていたが、よく考えたら私が教室からずっと見ていた幸村先輩は、実は仁王先輩。
しかも仁王先輩は私の視線に気付いてた。
私はつい昨日初めて仁王先輩に会ったつもりでいたが、仁王先輩からしたら前々から私の存在に気付いていたことになる。
ああ、そうだ。やっとわかった。
私はこぼれ落ちた涙を指でぬぐう。
私を好きだなんて言ったのは、やっぱり私をからかう為だ。
私が幸村先輩を好きなのをからかって…
あの人はそういう人なんだ。
そう理解したのにも関わらず胸の痛みは治まる気配すらない。むしろ酷くなった。
私の気持ちをこんなにかき乱して許せない。
今日この鍵を突き返してはっきり言ってやる!そう決心した時だった。