第1章 *テニプリ*仁王雅治*
未だ放心状態で呆然としている私の頭を覗き込んでくる。
それが面白かったのか先輩はいたずらが成功した子どものような笑顔を見せた。
そして、私の手を取ると先輩はポケットから取り出した何かを握らせた。
「なんか、面白いくらいに固まっとるのぅ。ずっと見てるのも面白いんじゃが…俺は先に戻るぜよ。鍵、ちゃんと締めたら今日の部活終わりに俺んとこに返しにきんしゃい。部室で待っとるから」
仁王先輩はそう言うと私を残し、屋上を去って行った。
誰もいない屋上のはずなのに騒がしいのは風のせいか、私の心臓か。
しばらくして自分の口から出た言葉は
「…次、体育か…」だった。
なんとも冷静なようでいてただ思考が止まっているだけの気の抜けた言葉。
ガチガチの体をゆっくり動かし屋上を出ると言われた通りにしっかりと鍵を閉める。
次は苦手な体育。こんな状態で果たして体は動くのだろうか。
ああ、ちょうどいい。
体調が悪いということで見学にしよう。
そう、体育は苦手なんだ。
必死にそんなことを考えているのはきっと先程の出来事を考えないようにしているせいだろう。
何故なのかは自分でもわかっている。
思い出せば、きっと胸が痛くなる。