第1章 *テニプリ*仁王雅治*
先輩は私から目をそらし再び遠くを眺めている。
何が言いたいのかわからないと文句を言いたいところだが、その言葉はグッと飲み込んだ。
肩より少し長い襟足を1つに束ねるそのゴムを解くと先輩の綺麗な銀色の髪が風に舞う。
ああ。この人も悔しいほど絵になる人だ。
幸村先輩と同様とても惹かれる姿…なのだが、幸村先輩と違うところは、仁王先輩は黙っていれば。という条件が付くところか。
その後姿に、私はおもむろにスカートのポケットから携帯を取り出すと、カシャと写真を撮った。
その音に気付き仁王先輩がこちらを振り返る。
「…1枚500円ナリ」
「高…」
アイドルでもあるまいし、と思いながらも思わず自然と笑みがこぼれてしまった。
その瞬間、今度は先輩の方からシャッター音が聞こえた。
「え!?撮りました!?」
いつのまにか先輩の手には携帯がありそのカメラは私に向けられている。
「私はだめですー!消してください!」
この人の前で油断した私がバカだった。
あれだけ散々からかわれたのだ、今後ずっとこの写真をネタに揺さぶってくるに違いない。
楽しい中学生活を維持する為にもそれは絶対に阻止しないといけない。
すぐさま先輩の元にかけより手に持っている携帯を奪おうと必死に飛びつく。
しかし左腕を高く上げ、
「ほら、ここまで届いたら消してやるぜよ」
と、予想通りの意地悪をされる。
先輩の肩よりも低い私が絶対に届くわけがない。
もう!と思いっきり右手を伸ばした時、腰に慣れない感触を覚え気付いた時には私の体は先輩の方にグイッと引き寄せられた。
突然のことで言葉も出ず、空を掴んでいた私の掲げた右腕が力なく降りていくと同時に
カシャンと何かが地面に落ちる。
そして私は、完全に先輩の腕に包まれた。
ただただ呆然とする私の耳元で先輩は、
「俺が、好きって言ったらどうする?」
静かにそう言ったかと思うと先程よりも力強く抱きしめられた。
完全に思考停止してしまった私の頭ではどれほどの時間がたったか見当もつかないが、しばらくすると先輩はそっと私を解放し、頭をポンポンと撫でた。
そして地面に落ちている携帯を拾い上げサッと砂を払う動作をした後にポケットへしまう。
「おまんの笑ってる顔やっと見れたぜよ。可愛く写っとるき、許してくれんかの」