第1章 *テニプリ*仁王雅治*
パッと手を払いのけて屋上へ自ら入って行く。
入学して数ヶ月。問題など起こすわけもなく一般的な生徒だった私はついに規則を破ってしまった。
しかし、先生に見つかったら仁王先輩に強引に連れてこられたと言おう。と心に決めたからわりと冷静でいられた。
「っていったかのう?さっきそう呼ばれとったよな?」
ふいに名前を呼ばれ振り返る。
「…です」
そうか。と笑うと屋上の手すりに肘をつく。
「おまえさん、幸村のことが好きなんか?」
いきなりその名前が出たせいかピクッと体が跳ねた。
「なんで、いきなりそんなことを?」
先輩はニヤッとした顔で「図星か?」と笑う。
「違います!…というか、それが先輩となんの関係があるんですか?」
依然手すりに肘をつき遠くを眺めるその後ろ姿に投げかける。
緊張と焦りからか少し汗ばんだ体を心地よい風がなでてくれる。
それと同時に先輩の銀髪もなびく。
「これはもしもの話なんじゃが…俺がおまえさんを気に入っていると言ったらどうする?」
いまいち言ってる意味が理解できず
「…どうせまた私をからかってるんだとしか思えません」
と、冷たく言い放った。
先輩にこんな態度はあまりよくないと思いつつも、この人には昨日から振り回されっぱなしなのでこれくらいはっきり言わないと。と思い思わず口にしてしまった。
「生意気な後輩じゃのう。うちの赤也にそっくりじゃ。で、話は戻るがどうなんじゃ?幸村のこと」
生意気と言われたことに若干ショックを受けつつも、赤也って誰だろうと考えたり幸村先輩のことを考えたりで頭の中は真っ白になりつつあった。
「どうしてそんなことを聞きたいんですか?」
「いいから」
なんて勝手な人だ。
この時点で私の頭はショートしかけていたので、もうなんとでもなってしまえと思い
「好きですよ。幸村先輩のこと」
と、言ってしまった。
嘘は言ってないと思う。
仁王先輩は微動だにせず私をジッと見つめてくる。
何を考えているのか全然わからない。難しい人だ。
先輩は少し目を伏せながら笑うと、「そうか」とポツリと言った。そして、
「ま、好きならせいぜい揺るがないように注意しときんしゃい。油断してたらすぐ奪われてしまうかもしれんからな」
「え?」と私が先輩を見るとニヤッといつもの顔で笑う。