第1章 *テニプリ*仁王雅治*
まさか入学早々呼び出しをくらうとは。
しかもこの人派手だから一緒に歩いているとみんなが私を振り返って見てくる。
先輩の後についていきたどり着いた場所。
「ここは屋上じゃないですか」
確か最初の入学説明会の時、屋上は現在立ち入り禁止になったと言われて友人たちと残念だね、なんて会話をした覚えがある。
「仁王先輩…屋上はダメですよ…」
私がそう言うのも遅く、ガチャと鍵の開く音が静かな廊下に響いた。
なんで鍵を持っているのかわからないが、この先輩なら何をしでかしてもおかしくない。と思っていた。
扉の前で立ち尽くし困惑している私に仁王先輩は「ほれ」と手を差し伸べてくる。
この人に手を差し出されたのは今回で2回目だ。昨日のモデル料と言いながら手のひらを突き出してきた姿が脳裏で重なった。
その手のひらをペチッと弱々しく叩き落とす。
「…またモデル料ですか?」と、精一杯の嫌味をぶつけた。
仁王先輩はフッと短く笑い再び手を差し出してくる。
「そんなに払いたいならその話はあとでじっくりしようじゃないかのぅ。
いいからほれ、早くきんしゃい」
せっかく払いのけた手をこうも再び出されては今度こそ私もこの手を取らなければいけない気になってくる。
私が諦めたように手を出したその時、ひょいっと先輩は手を引っ込めた。
「ちょ…ええ!?」
行き場を失った手は宙を舞い、段差に足を躓けてしまいバランスを崩した。
倒れる!そう思い目を瞑った瞬間フワッと体が浮いた感覚に驚き目を開くと
「おいおい…大丈夫か?おまんまさか運動音痴じゃな?」
と、先輩の右腕でしっかりと上半身が支えられていた。
こんな姿を晒してしまった恥ずかしさと不本意ながら先輩に抱きかかえられているという恥ずかしさで
「もう!仁王先輩のせいですからね!」
と、叫んでいた。
どうもこの先輩といると自分のペースが狂わされる。昨日からからかわれっぱなしだ。
「あの、仁王先輩」
先輩は私を抱きかかえながら、なんじゃ?とこちらを見る。
「もう離してください…あと…あーもう!早く離してください!」
言うべきか言わないべきか迷ったが仁王先輩は倒れた私を助けてくれただけ。
そう、それだけなのだ。
だから先輩の腕が胸に当たってるのは故意ではないので私は何も言うまい。