第1章 *テニプリ*仁王雅治*
全て想像の域を出ないが、このことは先輩には言えない。
私がずっと先輩を見てたからだなんて、恥ずかしく言えるものか。
話題をそらそうと必死に言葉を探す。
「そ、そういえば仁王先輩、やけに私にテニスしている姿を見せたがっていたんですよね…見ててとか言って…」
私のこの言葉に幸村先輩はパッとこちらを見ると、「本当!?」と聞いてきた。
「あの仁王が、見ててって言ったの?」
なんだか嬉しそうだ。
私が頷くと、先輩は今までにないくらい笑っていた。
私にはその意味がよくわからなかったがつられて笑ってみた。
ひとしきり笑い終えたのか、久しぶりにこんなに笑ったよ。とお腹を抱えている。
「あの、何がそんなにおかしいのですか?」
そう尋ねると、またフフッと笑う。
「だってあの仁王がそんなこと言うなんてさ。これはもしかしたら…」
「えぇ…?どういうことですか」
困惑気味に聞く私に先輩は優しく言った。
「とりあえず、変わった奴ではあるけど仁王はいい奴だよ。それは俺たちが保証する」
なぜ突然保証されたのか謎である。
私が困り顔で首を傾げていると
「で、仁王のテニス、見ててどうだった?」と、聞かれた。
「それはもう純粋にかっこいいなと思いました!とても上手だなぁって…ああ、私みたいな素人から見てですけど」
先輩は優しい笑顔で微笑む。
「それはよかった。仁王も立派な立海テニス部レギュラーだからね」
仁王先輩はレギュラーという事実に驚く。それは上手いわけだ。納得。
しかし私の仁王先輩のイメージは完全に不真面目でちゃらい人という印象が強いせいか、立海テニス部にこんな人もいるんだ…と驚かされた。
「幸村先輩は部長さんなんですよね。まだ先輩が打ってるところ見たことないから…見てみたいなぁ…」
幸村先輩はありがとう。と笑うと少しだけ表情を曇らせた。
「俺、体弱くてさ。部長のくせに休みがちで、副部長にまかせっきりのダメ部長なんだけどね」
そう言って寂しそうな顔をする。
そういえば仁王先輩が言っていた。
幸村先輩は入院していたと。
「君がそんな悲しそうな顔しないでよ。確かに部長としては頼りないかもしれないけど、テニスに関しては俺、誰にも負ける気はしないから」
そう言う先輩の顔は先程とは違い、力強い目で私を見ていた。