第2章 胡蝶蘭~すべてのはじまり~
意識が吸い込まれるようにその空間から意識が再び戻ると、気がつけば炎の中にいた。
「......ここ、どこよ...」
「...いやだ、死にたくない...」
「逃げよう、2人とも。なんとかなる」
「「え??りっちゃん...?」」
そう言う物静かな子はあることに気づいた。
甲冑の男がそこにいた。
柱にもたれて寝ているようだった。
その後ろに刃のようなものを持った人がいた。
「あぶないっ...!」
物静かな子は咄嗟にその男を庇うように刃を受け止めようと体に傷を負った。
その声に目覚めたのか、男は物静かな子を見て言った。
「貴様...この俺を庇ったのか...」
「...どちらでもいいです。とりあえず逃げましょう。ふたりも立って!」
そう言い、炎の中を抜け出した。
だが、抜け出して直ぐに物静かな子は切られてしまった傷が痛むのか、顔を歪めた。
しかし、歪めても尚、無表情にしか見えなかった。
「どうやら俺は貴様らに命を拾われたらしいな。寺の坊主と密通でもしていた遊女だろうが、礼を言ってやる」
「......ねぇ、ゆうじょってなに?」
「確かに...」
「なんだ、貴様ら。俺の名を知らんのか?」
「「知らない」」
2人は答えた。
偉そうな口調、冷ややかな眼差し、時代劇でしか見たことのない甲冑…しかも腰には、日本刀らしきものまで携えている。
ふたりはここがなにかの舞台かと思っていた。
「なら教えてやろう。俺は尾張の大名、織田信長」
「「おだ、のぶなが......?!」」
ふたりは声を揃えて上擦るように言った。
驚くのも無理ないだろう。
ここは戦国時代の本能寺前だ。
まだ燃え盛る本能寺前だからだ。
「俺が名乗ったのだ。貴様らも名乗れ」
「あ、私。紗和」
「あたし、愛心」
「......」
ふたりは名乗ったが、片膝付き伏せている物静かな子に、信長は視線をやるが気づいていないのか...黙り込んだまま。
傷が痛むのかそのままだった。
その時、大勢の声がした。
「...御館様っ!!」