第4章 蝶と柱
小さな体を見ると首や腕に紫の痣がある
「まいごなの
だからまいちゃんなの
お母さんが言ってた」
返す言葉が分からない
勝手に舞という漢字だと思ってたけど
ああ、やっぱりあの母親を許せない
結局黙ったまま昼過ぎ頃に蝶屋敷に帰ってきた
何も言うことが出来ない自分が本当に情けない
縁側に2人で座る
蝶が何羽も飛び交う
名前すらない少女は居場所もない
でも
あの鬼の恐怖は決して忘れることができるものではない
もうこちらの世界に巻き込んでしまったのだろうか...
「名前決めようか」
「なまえ?」
本人が気に入っているならいいとは思うけどあの母親を見てからは、どうも まいちゃん とは呼びたくないもっと呼ばれて嬉しくなるようなものだったらいいんだけど...
「なんて呼ばれたいかな?」
さっき言われたことを考えた
[この鬼、化け物!]
簡単に自分の感情を抑えられなくなった
自分以外の人に対して初めて怒りが湧いた
あのときで会えてよかった
もしあのままだったら鬼に食べられていたかもしれないし、飢え死にしていたかもしれない
生まれてきたことを喜ばれないまま
死ななくて良かった
「よくわかんない」
まぁそうですよね...
「それなぁに?」
どれでしょう
あ、これね 簪ね
「かんざしって言って髪をまとめるの」
「これにする!」
はい?簪って名前にするの?
と思った自分が馬鹿だった
小さな指先で示していたのは
簪の先にある小さな模様
「椿」