第14章 嚆矢
「私がこんなに綺麗な服を来ているのもそのせいなのよ」
彼女は30代の婦人だった
だが夫との間に生まれるはずだった子は流産してしまいそれからは夫や義の親からの暴力が絶えず
家を出てきたらしい
裕福の家だったから
ありったけの金を持ち
世間知らずの婦人が外に出てきたというわけだ
「手に余るほどの金があれば医者に行って
赤ちゃんを授かれると思った
だけど無理だった...!
諦めろと言われるばかり...
だから色々旅をしたの
色々な街を見たわ
でもね
どこを歩いても私の居場所なんてなかった」
彼女は話しながら涙を流し
涙を流しながら笑っていた
もう心は壊れていたのだと思う
「もうすぐお金も尽きるし、元旦那はきっと私の事なんて忘れて新しい奥さんと子供を待ち望んでいるはずだわ
このまま誰にも覚えられないまま死んでいく前に
あなたに知ってもらえてよかったわ」
僕は初めて
鬼になって初めて人を殺したくないと思った
この人を生かしたいと思った
でも彼女は死ぬことを望んでいる