第14章 嚆矢
「貴婦人、鬼というものを知っていますか?」
汽車から降りた
ここの停車時間は長い
サッと殺して喰ってしまおう
そう思って散歩を口実に汽車をおりた
なぜこの人はここまでついてくるのか
お節介も甚だしい
確かにこの真夜中に10、11ほどしかない少年がこの汽車に一人でいること自体おかしいが
誰もいない路地裏
街の光は遠くに
一件あたりは静かで光が無い分とても暗かった
もしもこの人が鬼のことを知っていて
いや、鬼のことを知らなくても
こんな路地裏には着いてこないはずだ
服も西洋の服にしては高い
どこかの令嬢だから世間知らずなのか
でももうどうでもいい
「鬼は夜になると人に化けて人を喰う生き物なんです
僕もその一人だ」
心臓を一突き
爪を立ててしまえば終わる
だけど彼女は怯えていなかった
それどころか清々しいほど綺麗に笑ったのだ
暗いここでは月明かりしか頼りがない
それでも彼女は笑ったんだ
笑ったんだよ
「私を殺してくれるあなたは私にとって神様だわ」
「あなたは今殺されようとしてるんですよ?」
僕は動揺したのかもしれない
立てようとした爪も力が抜けた
「最後に聞いてくれる?私の話?」
誰かに似てる
でも思い出せない