第14章 嚆矢
圧迫感は...もうなかった
でも音がしない空気に緊張はした
目の前にいる鬼は本物だ
間違いない
でも
「んーだめだ思い出せないなぁ
あ、もしかして鬼殺の家系?
いやそれだったらもっと殺気立ってるだろうし...
でも君面白いね
全く怖がってないんだろ」
夜目には慣れている
錦家の噂に先祖は狼と交わったって話らしいけどやはり本当なのかもしれない
よく見ると変な帽子に奇抜な服を着ていた
「なぁ なにか喋れよ
口がきけないわけじゃないんだろ」
「...早く喰ってください
早く俺を殺してください」
驚いたことに心臓の音は静かで
手の震えなんてものは無いし
恐怖心なんてものはさらさらない
自分でもわかる
このままだと手足の冷えた血が心臓に行けば麻痺を起こすだろう
でもそんなことどうでも良くて
一瞬驚いたような顔をしたそいつはすぐに
元の奇妙な笑顔に戻ると
「殺して欲しい?
そんなこと言われても殺しがいもないし
んー...じゃあ鬼になんなよ」
僕が...鬼?
「素質はないかも知んないけど
人間でいるよりは価値が上がるんじゃない?」
そこからは早かった
鳴女さんの力を借りて鬼舞辻のところに行って
血を貰った
でもどういう訳か
俺は大量の血に耐えられたのだ
覚悟なんてない
人を殺せるのか分からなかった
けど
無性に今
人を殺したかった