第14章 嚆矢
父上を尊敬していた
これは嘘だ
兄さんを好いていた
これも嘘だ
母上を信じていた
これは本当
姉さんを嫌っていた
これが
僕が今までついてきた1番の大嘘
姉さんが最終選別に向かった2日後
父上に稽古をつけてもらった
やくただず
錦家の恥
生まれるべきじゃなかった
その日はいつもに増して暴言が酷かった
そしていつもに増してその日を辛く感じたのは
いつもなら止めに入る姉さんがいなかったからだ
甘ったれ
腰抜け
負け犬
鬼とか鬼殺隊とかどうでもよかった
だけどあの家で刀を振らずには生きていけなかった
常に機嫌を取らなくてはいけない
取れた試しはなかったけど
暴言を言うのに疲れたのか飽きたのか
背中に殴られる痛みを感じなくなった時
そこに父上の姿はなかった
ゆっくり起き上がって天井をぼんやり見つめると
何かが無性に湧いてきた
言葉で言い表せないのものって
いくつもあると思うけど
きっとこれもそのひとつだったのだと思う
僕はその正体が知りたくて
気がついたら錦の集落を抜けて
林の中でただ何も考えず
前を歩いていた