第12章 癒えない傷
暗い世界
耳も触覚も鼻も
私は良いわけじゃない
だけど
聞こえる
触れる
匂いがわかる
子供の時にこの状態で一週間過ごしただけで
ここまでたどり着いたわけじゃない
全集中の呼吸で
神経を尖らせ
全ての血管という血管を広げる
風が作り出す空気の波長に
体を合わせて
木をつたいながら
枝を飛び移り
坂を駆け上がる
絶対に速さをおとさない
岩にだってつまづかせない
小さく舞う風が肌を走る
何十にも重なった葉たちから
落ちてきた木漏れ日が肌を踊る
全ては想像の中だ
美しいと感じるのは最初だけ
日が落ちるまでに
木の本数を数える
今はそれぐらいしかできない
本来ならこの状態で
誰かからの攻撃をかわしていく
4027...
4028...
4029...
正しい答えを知らない
だから二週して数が合うまで
だんだんおかしくなってくる
暗闇の中
もし滑り落ちたら
地面との距離感もつかめず
受け身を取れなかったら
誰にも気づかれないままここで終わる
蜜璃さんほど体は柔らかくないし
不死川様ほど力強くもない
宇隨さんほど速くもないし
煉獄さんほど周りを見れるわけでもない
自分だけ特化しているものを言うならば
身軽さだけなら自身はあるから
もっと強くならないと
戦いを終わらせるために
「もうすぐ終わるね」