第11章 弓を引き 雫を穿つ
「いや、だってさっき黙ってろって言われたし・・・それに、そんな吃驚(びっくり)もしなかった・・・」
さっきより確かに俊敏になった
力も増してる
でも大したことがない
私の片腕をとった上弦の弐に比べたら
そうだ
速さだって遅い
こんなに簡単に隙を見せてくれるような
"弱い"鬼じゃない
「木の上に逃げるなと己が言わなかったか?
面倒なことだのぅ」
「いや、単純に臭かったから
鼻が曲がりそうだよ」
なんでこんなに腹が立ったんだっけ
わかんない
でも聞こえる
胸が引き裂かれるように
痛い 寒い
鬼に喰われる人
助けてって最後に言って亡くなる
叫び声が頭に響く
今までどんな殺し方をしたんだろう
何万人もの人が
この鬼の言う"芸術"になったんだろう
「どうだね、私のこの神の手の威力。拳で触れたものは、全て愛くるしい鮮魚となる そして、この速さ!!
この体の柔らかくも強靭なバネ、更に鱗の波打により、縦横無尽、自由自在よ」
酸素が足りない
「震えているな、恐ろしいか?
先ほどの攻撃も、本気ではない」
(ックソ...またあの女の殺気で...)
「どんな凄い攻撃も、当たらなかったら意味ないでしょ」