第11章 弓を引き 雫を穿つ
______九年前
「あなた、もう許してやってください!
私が悪いんです!まだ五歳ですよ!」
母上に聞く耳を持たない父上
食卓を家族で食べた覚えがない
「もう五歳だ!そのくせあいつは...
やはり甘やかしすぎたようだ!」
今日は雨が降ってる
近所のおじさんもおばさんも
私が外に追い出されている時は声をかけてくれない
なんで夜は寒いんだろう
いつもなら母上が内緒で入れてくれるのに
今日はきっと無理だ
夕方に鬼狩りから帰ってきた父上は
いつもより疲れていて
家に入るなり
私に竹刀を握らせて稽古をした
痛みよりも恐さが勝ってて
でも手が痺れて
竹刀を離しちゃった
だから今日は家に入れて貰えないのかな
兄さんもだんだん冷たくなって寂しい
母上はもうすぐ赤ちゃんが生まれる
二人だけで
二人だけで過ごした
二歳の紫遊佐は父上と兄さんとは仲良くないけど
母上と私とは仲良しだった
雨が降る数だけ誰かが泣いた
今日は土砂降りだから
きっと悲しいことがあったんだ
だから父上も疲れていて
私は竹刀を話しちゃいけなかった
___カラカラ
「ねーさん はいらないの?」
紫遊佐?
「今日はたぶん入れない」
「そっかぁ」
戸を閉める音がした
山の中で
夜の中で
雨の中で
きっとこの雨に
私の涙も混じってる
部屋に帰ったのかな
二歳の子には寒いよね
「目から水が出てる」
隣に座った紫遊佐の熱が左腕から伝わる
部屋に帰ってなかったの?
暖かい
「入っていいんだよ?」
「いっしょ、いる!」
雨は止まなかった