第11章 弓を引き 雫を穿つ
体が熱い
今まで感じたことないぐらい
心臓の音が激しい
指先まで神経に、血管に、酸素が行き渡る分
肺に帰ってくる使い終えた酸素を吐き出すことに忙しくなる
肺が苦しい
無理に呼吸しなければ今頃は...
でもあともうちょっと
せめてこの鬼を倒すまで
「血鬼術 蛸壺地獄」
壺から出てきた太い蛸足
私を含め時透様も蛸足に圧迫される
さっきまでのあばら家が全壊してしまった
今の私じゃ
前から圧迫されると
確実に
「時透殿!」
刀鍛冶さんも蛸足に押しつぶされる
肺に空気が入らない
駄目だ
諦めちゃだめ
耳が遠い 意識も...遠のく
「柱合会議であった...紫娜だっけ どうしたの?」
刀鍛冶さんが嘔吐いてる
助けなきゃ...
刀が...紫遊佐の刀が折れてしまった
私はなんで動けない?
紫遊佐じゃない
時透 無一郎様なのに
頭が狂う
痛みがなければ感覚もなくなってきた
「ヒョヒョッ、どうだこの蛸の肉の弾力は。
これは斬れまい」
「紫娜 大丈夫?」
紫遊佐の声がする
錯覚しないように目を瞑っても
脳が勝手に期待してしまう
「女の方はもうくたばったか...それはそれでまたいい 素晴らしい芸術ができる
先程は少々、手を抜き過ぎた。
今度は確実に潰して吸収するとしよう」
──ババッ
急に圧迫感が無くなった
微かに目を開けると蛸足が斬られている
刀...折れてしまったのに...
「俺のために、刀を作ってくれて、ありがとう“鉄穴森さん”」