第10章 鬼と花
初めてだったかもしれない
椿と出会ってから約半年
二人で出かけるのは
それなのに椿からは何も我儘を聞いていない上に
私個人の理由で
引き取ると言っても
椿と一緒にいる時間がほとんどなかった
「椿同じような簪が欲しい」
椅子の高さで足が床につかないのか
少し足をばたつかせて指さしたのは
私の長い髪ををまとめた簪だった
この簪をくれた紫遊佐はどうやって手に入れたんだろう
ましてやこんな美しい椿の装飾がされている簪なんて
「この簪はね、弟から貰ったんだよ」
「なんて名前?」
「紫遊佐っていうの
いつか会えたらいいね」
「しゆーざ?」
いつか
紫遊佐に会わせたい
私達の新しい________
いつか会えたらいいね
この言葉に少し疑問を持ったのか
首を傾けると
すぐに無邪気な子供らしい顔を見せる
「椿、髪長くなったでしょ?
だから紫娜さんみたいにしたい」
前の親から虐待を受け
雑に切られた髪は
肩あたりだったが
今は背中の半ばまでの長さだ
綺麗な長い髪になってのは蝶屋敷の胡蝶様やアオイさん、女の子3人のおかげだと思う
「じゃあ簪買って行こうか」
「うん!」
まだ親からの傷が完全に癒えたとは言えないが
少なくとも椿を 椿 として感じられるようになった
この笑顔を守るためにと
私がこれから生きる一つの理由を
椿は与えてくれた
右手で繋いだ小さな手は
柔らかく少し冷たかった