第10章 鬼と花
なんで泣いてるんだろう
理由なんてないのに
生きなくちゃってなんのために?
自分で言ってることさえもわかんないのに
炭治郎さんの言葉はいつも暖かくて
低温火傷で心が折れる音が聞こえる
それでもこの温もりから目をそらしたくない
「紫娜はどうしてあまり笑えないんだろうな」
「笑えない...?」
すると炭治郎さんの手が急に私の頬に手を当てた
親指は少し濡れている目頭を拭くように
「ふぇ?」
「きっと紫娜は心で思ったことを顔に出さないんだな 頑張れ紫娜!人は顔に感情が出た方が楽になれるぞ!」
心に浮かんだ文字が変形をなすことなく沈んでしまっていた
泣くことはできるのに
「ふぁんひほーさんもーふぉろふぉろはなひて
(炭治郎さんもうそろそろはなしてください)」
やっと離してくれると思ったら
最後にバシっと喝を入れられた
「それと簡単に死にたいなんて言っちゃ駄目だ
紫娜が死んだらみんな悲しむ」
びっくりした
炭治郎さんがちょっと的はずれなだけで
実は紫優雅は一般的な兄だったのかもしれない
「炭治郎さん、明日からの長期任務なんですが
珠世さんという方をご存知ですか?」
驚いたような顔はすぐに溶け、いつも通りの穏やかな顔になる
炭治郎さんは心と表情が表裏してるんだろうな
「珠世さんにはお世話になってもらったことがあるんだ 」