第9章 自切
「あの、ここで聞くことないんですけどお名前伺ってもよろしいでしょうか?」
「富岡だ」
下の名前までは教えてくんないのね
でもやっとわかった
富岡様といったら水柱様か
炭治郎さんと一緒のやつだ
なんか様付けしたら怪訝そうな顔するから さん の方がいいね
空気が変わった
血の匂いが強くなる
近くにいる
自然に富岡と紫娜は背中併せになって戦闘態勢になる
いつどのような形で攻撃が来るかわからない
鬼の様子も鬼の顔も
夜に慣れた目でもこの暗さでははっきりとした輪郭を捉えることは出来ず、ましてや富岡の気配を確認できるほどの余裕はない
だが
重苦しい空気はプツッっと糸を切ったように緩く、解けてしまった
何がきっかけだったのかは分からないまま
その後は濃くなっていた血の匂いも薄くなり
ただ残るのは鬼殺隊の隊士二人と
雨の降りそうのない厚く夜空を覆う雲だけだった
空気の変化を感じたため刀の先をさやにひっかけて刀をしまう
どうもおかしい
鬼は自分たちの存在に気づいたのかそれとも気付かずにただ通り過ぎていったのか
血に飢えた鬼がただ通りすぎるということは考えにくい