第16章 愛とは その三
重苦しい雰囲気が部屋を静かに包み込む。
その原因を作ったのが自分だと思うと些か申し訳ない気分になった。
いつの間にか手首を掴んでいた手は下へと下がり、掌を覆う様に握られていた。
ひんやりと冷たい手は相変わらず変わらない。
本当は触れて欲しくない。
でも、振り解こうと思えば出来る筈なのにそれが出来ない自分がもどかしい。
下を向いたままもう一度謝罪の言葉を掛ける。
しかし、そんな自分に何かを言う訳でもなく、ただ視線を向けられる。
「…まだ、痛むのか?」
そうぽつりと自分の知っている扉間に似付かぬ様な小さな声でそう言われる。
主語も無く何の事を言っているのか分からず、少しだけ返事に困る。
そんな自分の様子に気付いたのか、また小さな声で「傷」と一言だけ言われた。
たった一言だったけれど、それが何を指しているのかはすぐに分かった。
「今はもう痛みも引いたし、修業だって出来る様になった」
小さく首を振りそう答えれば、また沈黙がその場を包む。
向かい合ったまま特に何かを話す訳でもないし、これ以上聞きたい事がないのならば自分がここに居る必要はない。
それに早く扉間から離れたかった。
思った事を口にし、そのまま手を振り解き立ち上がろうとしたら、また手首を掴まれ、そのまま勢い良く引っ張られる。
突然の出来事についバランスを崩し、扉間の方へと倒れ込む。
そして、その直後に両腕を背中に回され、肩に顔を埋められた状態で抱き締められた。
「ちょ…!と、扉間、離して…っ」
「ワシに術を掛け欺いた報いだ。甘んじて受け入れるんだな」