第17章 愛とは その四【*】
本当はもっと優しく抱くつもりだった。
いくら傷が癒えたからとはいえ、無理な事はしたくなかった。
それに名無しの様子を見る限り、自分と別れた後も他の男と同衾していない事はすぐに分った。
だからこそ優しくしたかったのに、結局は名無しが達した後も制止の声を振り切り揺さぶり続けている。
「っ、はっ…」
自身を締め付ける感覚に耐える様に息を吐きながら、声を上げる名無しの姿を見つめる。
瞳には涙が浮かんでおり、ぽろぽろと止まる事無く流れていた。
その顔が堪らなく官能的で、まるで煽られている様な感覚に陥り、動く度にどんどん自身の息も荒くなる。
「ん…ぁ、扉間…っ」
「はっ…、くっ…」
そろそろ自身の限界も近い。
少しずつ吐精感が近付くのを感じ、乱暴に舌を絡めればそれから少しして名無しの中で何度か脈を打ち広がって行った。
高鳴る心臓と息を落ち付けようと余韻を味わう様にゆっくりと前後に動かせば、未だ締め付けを感じる事が出来る。
薄っすらと開かれている唇からは何度も深く息を吐く音が聞こえた。
それから落ち着いた頃を見計らい名無しの身体を抱き上げる。
支えながら正面から見つめれば、自身にもたれ掛かかっていた顔を上げ、何度も口付けされる。
先程のものとは違う啄ばむ様な軽い口付けだが、それでも自身を満たすには十分なものだった。
「…さっき言った事、ちゃんと守ってよ」
首元に顔を埋めながらそう小さく可愛らしい事を言うものだから、つい顔が緩む。
こういった小さな事にさえ一喜一憂する自分を少々情けなくも思ったが、今日ばかりは仕方ない。
その言葉に「覚悟しておくんだな」と返せば、また少し顔を上げ嬉しそうに微笑む名無しの顔が目に入る。
初めて見るその表情はずっと自分が見たかったもので、ようやく辿り着いた気がした。
「愛してる」
もう一度、その言葉を伝えれば、次はどんな顔をするだろうか。
ようやく手にする事が出来た。
もう名無しを手放す気も名無しを残して死ぬ気も無い。
これから先、自分達に何が起こるのかは誰にも分らない。
それでも明日からはきっと今までとは違うものになるだろう。
自分に守られる程弱くはない女だが、それでも名無しを守り共に在りたいと心から思う。
そう思いながら抱き締める手に力を込める。