第16章 愛とは その三
突然の出来事に少しだけ言葉がどもる。
座っている扉間の膝の間に身体を入れ込む様な形で抱き締められており、逃げるにも逃げられない。
抱き締められ自分でも心臓が少しずつ早くなっているのが分かる。
今までこんな風に抱き締められた事なんてないし、正直どうしたらいいのか分からない。
そして、扉間が何をしたいのかも分からなかった。
それでも、背中に回される腕が温かくて心地良い。
今すぐにでも離れなければいけないのに、与えられる感覚から離れる事が出来なかった。
「…どうして、あの時ワシを殺さなかった?イズナの仇だと言う事ぐらい知っていただろう。それなのに何故、助けた?」
顔を埋められたままそう問われ、少しだけ心臓が跳ねた。
自分が扉間とミトさんと別れ、うちはに戻った日。
あの時の自分にとって最も重要だった事は「マダラをどう騙すか」という事だった。
そうしなければ、確実に扉間の命は無かった。
マダラとイズナ、柱間と扉間。
兄と弟の関係はどちらも同じで、そしてどちらの兄弟もそれぞれ互いを大切に思い合っていた。
それでもマダラはイズナを失い独りになった。
扉間が自分とイズナとの関係に気付いた事は知っていた。
「柱間の目の前で殺してやればいい。そうしたら、私達の痛みを少しは理解出来る様になる」
そう言う事で恨んでいる様に見せ掛けた。
その甲斐あってかどうにか最悪の事態だけは免れる事が出来た。
その問いに素直に「守りたかった」なんて言うつもりはない。
それに、扉間は今でも自分が恨んでいると思っている。
だから、その行動が理解出来ないのだろう。
本当の事を言うつもりはない。
それでも「恨んでいない」この言葉だけはどうしても伝えたかった。
「…イズナが死んですぐにお前が仇だという事は知っていた」
それから少しずつ自分達の事を話した。
何故、復讐する事が出来なかったのか。
そして、どうして自分がこうなってしまったのかも全部話した。
こんなにも他人に自分の心の内を話すのは初めてだという事もあり、その想いを言葉にするのには時間が掛かった。
それでも、話している間はずっと黙って聞いてくれた。