第14章 愛とは
瞳を閉じ心の中でお礼を言い、もう一度星空へと視線を向けようと瞳を開ければ、今まで感じなかった気配を背後に感じた。
振り向かなくてもそれが誰のものなのかはすぐに分かった。
「こんな場所で何をしている」
背後から声を掛けられれば振り向かない訳にも行かず、仕方なくそちらの方へと顔を向ければ、案の定、腕を組み仏頂面をした扉間の姿がそこにあった。
その顔の意味も分からないでもない。
今まで敵だったうちは一族の者が千手の屋敷に居るのだ。
そう簡単に信頼出来る筈が無い。
ましてやこんな夜中に裏庭に居るのだから警戒しない方がおかしい。
「…眠れなかったので気分転換に外の空気でも吸おうかと思いまして。でも、少し肌寒くなって来たのでそろそろ部屋に戻ります」
笑顔を作り極力穏やかな口調で話せば、訝しむ様な視線を向けられる。
その視線に気付かぬ振りをして立ち上がり、その場を後にしようと踵を返せばまた背後から声を掛けられた。
「何故ワシを避ける?」
「避けてなどいませんよ。現にこうやって話しているではありませんか」
「………」
本当は今すぐにでもこの場を立ち去りたいが、下手な行動をしてこれ以上警戒されるのも後々の事を考えれば避けなければいけなかった。
仕方なくその言葉に気付かれぬ様に小さく溜息を付き、ゆっくりと心を落ち付けてから振り向き笑顔を向ける。
上手く笑えているかどうかは分からないが、それでも少しぐらいはこの暗闇が隠してくれるだろう。
そう密かに願いながらもう一度扉間の顔を見つめそう言い放つ。
しかし、その返事も気にくわなかったのか未だ瞳は相変わらず鋭いまま。
折角の作り笑いもどうやら功を奏する事はなかったようだ。
それよりもむしろ、より一層機嫌が悪くなった様にも感じた。
「失礼します。おやすみなさい」
触らぬ神に祟りなし。
こう言う時はさっさと大人しく引くのが一番賢い。
同盟を組んだ以上、力で解決する様な事は無いが、それでも極力互いにわだかまりが残らない様にしなければいけない。
それが最も重要な事だ。