第9章 想いとの決別
目の前に立つマダラの姿は相変わらず強いチャクラで満ち溢れており、一族の長たる風格を醸し出していた。
近くで戦ってきたのだろう。
傷は無いが少しだけ服が汚れていた。
「久しぶりだな…。千手の屋敷に捕らえられていると聞いていたが何故こんな場所に居る?」
「…うずまき一族の屋敷に連れられ行っていた。でも大した事はしていない。それよりもマダラこそどうしてここに?」
そう思った事を口にしたら、案の定この近くで羽衣一族と戦って来た帰りだと教えてくれた。
そして、近くに自分のチャクラを感じたと言った。
元々マダラは感知タイプの忍ではなかった筈なのに新しい万華鏡写輪眼を手に入れてからは以前にも増して全体的な能力が上がっている。
感知能力も以前のものとは比べ物にならない程に変わった。
マダラの視線がゆっくりと自分から移され二人を捉える。
その動きに自分でも無意識に息を呑んだ事に気付く。
「扉間だけか…。今日は柱間は居ない様だな」
久しぶりに肌に感じる命を奪い合う様な感覚。
マダラの扉間を見る視線が一気に鋭くなる。
ミトさんを守る様に背後に隠し、刀を構える姿に心臓が跳ねる。
そして、そんな扉間の様子を表情を変えずに見つめるマダラも手加減をする気は無いのか、背後には既に須佐能乎の姿があった。
***
「水遁、大瀑布の術!」
そう扉間が叫んだ瞬間、大量の水がうねりながら舞い上がり一気に滝の様にマダラを襲う。
扉間の放つ水遁の規模は凄まじく、瞬時にミトさんを連れ近くの木に飛び移ればその後すぐに自分達が居た場所も水に沈んだ。
マダラもミトさんには興味はないのか、こちらを攻撃してくる事はなく一瞬視線をこちらに向けただけで次の瞬間には扉間の方へと視線を戻していた。
マダラは弱く非力な者には興味を示さない。
今はそれがせめてもの救いだった。
「ミトさん、今の内にこれを…」
「…これは?」
マダラの死角になる様、気付かれぬ内にある物を渡す。
手渡した包みを開け中身を確認したミトさんの表情が少しだけ変わった事に気付く。
包みと自分を交互に見つめる瞳は心配そうに揺れていた。