第8章 見えない心【*】
あれから扉間とは今日の予定について一言二言話したきりで、それ以外は話をしていない。
特に話し掛けられもしないし、こちらから話す様な事もない。
別に昨夜の事を咎めようとも思わないし、それをわざわざ思い出す必要もない。
お互い用事があれば話すだけ。
それ以外は普段となんら変わらない。
「二人とも、今回は本当にありがとうございました。お陰で式も無事に終わり、こうやって滞りなく帰路に着く事が出来ました」
そんな事をぼんやりと考えていたら、そう話しながら頭を下げるミトさんに慌てて頭を上げる様に頼む。
自分は何もしていないし、逆にミトさんの計らいで外に連れ出して貰った身。
うちはである自分を信じてくれて、こんなにも良くして貰っている。
お礼を言わなければいけないのはむしろ自分の方だ。
「私の方こそ色々と良くして頂き、本当にありがとうございました」
「ふふ、良いのよ。今度はあの方も誘い一緒に街にでも行きましょう。きっと喜ぶわ」
そう言ってくれるミトさんの言葉に少し困った様に笑えば、その心意を汲み取ってくれたのか「大丈夫よ」といつもの優しい笑顔で言ってくれた。
それから他愛のない話をしていたら時間はあっという間に過ぎ、気付けばあと少し歩けば千手の屋敷に着く程の距離まで来ていた。
その時だった。
ここからそう遠くない場所に決して忘れる事の出来ない強いチャクラを感じたのは。
「!?」
扉間も同じ様にそのチャクラを感じ取ったのか、瞬時に険しい表情へと変わる。
無意識に自分の服を握る手には薄っすらと汗が滲んでおり、自分でも緊張している事が分かる。
今この場には忍である自分と扉間以外にミトさんが居る。
万が一戦闘になった場合、真っ先に被害を受ける可能性が高いのはミトさんだ。
それだけはどうしても避けたかった。
扉間にすぐチャクラを消す様に言えば、事の重大さが分かっているのかすぐにその言葉に従った。
しかし時既に遅しか、目の前に一陣の風塵が舞い上がった後、そこには見知った姿があった。
「マダラ…」
目の前で不敵に笑う彼の顔は相変わらず変わらなくて、それが妙に懐かしくさえ感じた。