• テキストサイズ

【NARUTO】千手扉間

第8章 見えない心【*】


それからはあっという間だった。

閉じられた瞳の端に涙が滲んでいる事に気付いていながらも、一方的に名無しを抱いた。
時折、薄っすらと開かれる瞳は酷く悲しそうで、素直に綺麗だと思った。
感じるもの全てがあの女のものとは比べ物にならない程に自身を惹きつけ、狂わせる。
それはまるで毒が身体中を侵食していく様な感覚に似ていた。

***

最初から抵抗する気など無かったのか、素直に抱かれたなというのが正直な感想だった。
ただ、ずっと顔を背けほとんどこちらを見ようとはしなかった。
どうしてかなんて考えなくても分かる。
死者を想いながら好きでもない男に無理矢理に抱かれて何とも思わない女なんていない。

ゆっくりと身体を名無しの方へと向け、眠っている後姿を見つめる。
自分の身体とは違う細い背中や首、肩。
筋肉は付いているが、それでも細い事には変わらない。
その姿を見ていたら「女にはもっと優しくしてやらねば」という兄者の言葉を思い出した。
そして、優しいとは言い難い自分の行動に苦笑を浮かべる。

どうして、あの時イズナの名前を出してしまったのか。
冷静になって考えれば、随分と酷い事をしたなと自分の言葉に少しだけ後悔する。
その名前を出せば名無しが傷付く事ぐらい分かっていた筈なのに、それでも止められなかった。

名無しのいつもとは違う顔を見たかった。
ただ、それだけだった。

「私のそんな顔を見たところで何の意味もないだろ。私はあの娘とは違うし、普通の女でもない。それにお前は何も変わらない」

名無しがどうしてそんな事を言ったのかぐらい自分自身が一番良く分かっている。

うちはの自分が何をしようとも、千手のお前はそれを本当に見ようとはしない。
だから、何をしても意味がない。
分かっていた。
自分は変わる事が出来ない。

だから、こんな風にしか名無しを抱く事が出来ないし、傷付けてあんな表情しか見られない。
笑った顔など、最初から見られる筈なんて無かった。

(最低だな)

自分の事なのにまるで他人事の様に感じる。
例え傷付けてしまったとしても、いつかは居なくなる。
そんな不確定な未来に小さな逃げ道を見出す。

そう思ったら少しだけ気持ちが落ち着いた。
/ 115ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp