第7章 隠れた思い
「…分かった。扉間にはオレの方から伝えておこう。今回は状況が状況だからな。アイツも公私は弁えるだろう。名無しにはお前の方から伝えてくれ」
「ごめんなさい。我儘を言ってしまって…」
「愛しき妻の滅多にない我儘だ。甘んじて受けようぞ。それに…、オレもあの二人には幸せになってもらいたいからな」
そう言い額に優しく口付けを落される。
そのまま軽く抱き締められれば心は落ち着き、とても幸せな気持ちで満ち溢れていた。
***
「…という訳で、お前にはミト達と共に行ってもらいたい。オレもお前が付いて行ってくれれば安心出来るしな」
「分かった。…それより、何故名無しまで連れて行く必要がある?関係ないだろう」
「その事に関してはミトからそう申し出があって、ずっとこの屋敷に閉じ込めておくのは可哀想だと嘆いていてな。オレが許可した」
そう、あっけらかんと話す兄者に頭が痛くなる。
千手の自分はともかく、仮にもうちはの捕虜として捕らえている者を同伴させるなど普通は有り得ない。
二人の「捕虜」という域を超えてしまっている名無しに対しての扱いに気付かれぬ様に溜息を漏らす。
いくらこの屋敷から出られぬとも、それを可哀想だと言っていたら捕虜の意味が無い。
今の状況でさえ特殊な状態だ。
兄者がそれを理解して言っているのかは分からないが、そう決めたからにはその答えが覆る事はない。
「出発は準備が出来次第だ。後の事は頼んだぞ」
そう一言言い残し部屋を出て行く兄者の後姿をじっと見つめる。
あれから自分に対して特に何かを言及する訳でもなく、いつもと何ら変わらない。
自分を傍観者という立場に決め込んだのだろう。
そちらの方が自分も厄介事に巻き込まれずに済み助かる。
関わらなくても済むのならば、あれこれ無駄に考える必要もないし、そっちの方が断然楽だ。
今回も特に気にする様な事は無い。
ここからうずまき一族の集落まではそう遠くは無く、今から出れば昼前には着くだろう。
手短に出立の準備を済ませ待機していたら、女中にそろそろだと声を掛けられ、そのままミトの元へと向かう。