第7章 隠れた思い
いつからだったか、扉間と名無しとの間に少しの違和感を感じた。
それは日を追うごとに強まり、今ではもうすっかり二人は出会った頃の様な雰囲気に戻ってしまった。
お互い普段通りに話はするけれどずっと心を隠したまま。
私はそれがとても悲しかった。
***
「…分かりました。あなたは先に戻っておいて下さい。私も準備が出来次第、すぐに向かいます」
本家から一本の訃報が入った。
一族の長である自分の父が昨晩、亡くなったとの連絡があった。
病を患っており、いつかこうなるであろう事は分かってはいたが…。
いざ、その時が来てしまうと人の命のあっけなさをしみじみと感じてしまう。
孫の姿を見せる間もなく亡くなった父を思うと涙が零れた。
「そうか…。では、すぐにでも準備し立つぞ」
「いえ、本家へは私のみが向かいます。あなたは明日から大事な会合がおありでしょう。私も忍の妻。そして、父もそれを分かっています」
「しかしだな…、道中は危険もある。俺が着いて行けぬ以上お前一人で行かせるのは忍びないぞ…」
心配そうに話す夫を不謹慎ながらも愛おしいと思う自分はなんと親不孝な娘だろうか。
今までもこの優しさに数え切れない程救われた。
今回も自分を案じ最優先で考えてくれた事が嬉しかった。
しかし、忍の妻である以上は何が起ころうとも夫の邪魔になる様な事は決してあってはならない。
母がそうであった様に自分もまた同じ。
「ならば…、名無しを連れていってはいけませんか?あの子が一緒なら道中も問題はないでしょうし。それにずっとこの屋敷に閉じ込めてしまうのも可哀想だわ…」
「名無しか…、うーむ…。しかし、それはそれで逆に心配ぞ…」
その提案に渋る様子を見せた柱間に驚く。
自分もまさか柱間がそう答えるとは思っておらず、一瞬言葉が出て来なかった。
いくら、うちは一族の捕虜として捕らえられている身だとしても今まで共に過ごして来た名無しは無闇に人を傷付けたり、人を裏切る様な事をする女性ではない。
それは誰が見ても明らかなのにそれを信じて貰う事が出来ないなんてあまりにも悲し過ぎる。
そう思った事を素直に口にしたら、少しの沈黙の後でいつものあの笑い声が部屋に響いた。