第6章 それぞれの求めるもの
「マダラは万華鏡写輪眼を酷使し過ぎたせいで視力を失っていた。イズナは自分の死が近い事を知っていたからマダラに己の瞳を託して死んだ…。その瞳がこの戦争を終わらせ、平和をもたらしてくれると信じて」
「…強い情に目覚めた者程、闇に捕らわれ悪に落ちる。イズナはその引き金だったか。弟が原因で己を見失うとは皮肉なものだな」
そう言い終わるや否や、部屋には鋭い音が響いた。
頬を打たれた痛みはそれ程感じはしなかったが、それでもその行為に文句の一つでも言ってやろうと名無しの顔を見返せば、その瞳に涙が溜まっている事に気付く。
まさか泣いているとは夢にも思っておらず、すぐに言葉が出て来なかった。
「死んだ人を…、イズナを侮辱する事は許さない…っ。あの人はどんな形であれ、誰よりも平和を望んでいた。誰よりも仲間やマダラの事を想ってた…!」
こんなにも感情を露わにする名無しを見たのは初めてだった。
泣いた事にも驚いたが、声を荒立ててまで死者の名誉を守った事に一番驚いた。
そんな事をする様な女じゃないと思っていたから。
死を客観的に見つめ、己の死にさえ執着心を持たぬ女が他人の死を嘆くとは思わなかった。
未だ溢れ出る涙を拭こうともせず、真っ直ぐにこちらを睨みつけて来る名無しの瞳は赤くなっており、逸らす事が出来なかった。
***
あれから柱間が仲裁に入り、ひとまずその場は落ち着いた。
今は自室へと戻り横になっている。
捕らえられ、千手と戦い以外で関わり合いを持つ様になってから今まで見えなかったものが見えて来た。
柱間が心の底からうちは一族との共存を求めている事や友であるマダラを救おうとしている事も知った。
色々な事を知って行くうちにもしかしたらいつか柱間の言う通りうちはと千手が共に手を取り合い生きて行く事も出来るんじゃないかって思い始めていた。
だが、それは簡単な事じゃない。
綺麗事ですまされる程、人の愛情は軽くはない。
扉間の言いたい事も言っている事も理解出来る。
マダラはあの日から変わってしまった。