第5章 真贋【*】
明日には忘れてしまう事ぐらい分かってはいるが、そう耳元で呟いた後そのまま唇を塞ぎ、下から突き上げながら身体ごと揺さぶる。
舌を絡ませながら突き上げれば、激しい動きに合わさる様に名無しの口からは艶のある声と息が漏れる。
動く度に漏れる声をもっと聞きたくて、名無しの中から自身を引き抜き、そのまま四つん這いの体勢にさせ背後から挿入する。
乱れた髪から覗くうなじや背中に口付けしながら、本能のまま叩きつける様に腰を打ち付ければ、艶やかな嬌声が動きに合わせて名無しの口から吐き出される。
背後から手を重ねれば、息を上げながらも顔をこちらへと向け、口付けをねだる姿を素直に可愛らしいなと思った。
そろそろ自身の限界が近付き、更に動きを速めれば、自身を締め付ける力も強くなる。
段々とお互いの息遣いも激しくなり、肌をぶつけ合う音が妙に大きく聞こえた。
「はぁ、…っ!んん…っ」
「くっ…!っ…。はぁ、はぁ…っ」
そのまま欲を吐き出し、うつ伏せのまま息を整えている名無しの隣に自身も横になる。
酒を飲んだ後に動いたせいか少し頭が痛い。
名無しの方へと視線を向ければ、ふと、あるものに視線が注がれる。
自分でも無意識にやっていたのか、肩やうなじに口付けした際に赤い痕を残していた事に気付く。
まずいなとは思ったがもう遅い。
顔に掛かる髪をどける様に撫でればまたあの顔で微笑まれる。
その顔を隠す様に胸元に引き寄せれば、疲れと酒が相まってか、そのまま瞳を閉じる名無しの姿が目に入る。
(…明日の朝が恐ろしいな)
明日になれば自分も名無しもいつも通りに戻る。
それが「普通」だ。
今は何も考えずにいた方がかえって良いのかもしれない。
抱き締める手に力を込め首筋に顔を埋める。
そのまま深く息を吸えば名無しの匂いが直接頭に響き落ち着く。
今日は自分も酒やいつもとは違う雰囲気に当てられてどうかしていた。
そうでなければ、こんなにもこの身体が恋しいだなんて思わない。
そう自分の中で結論付け、そのまま布団に入る。
眠気は自分が思っていた以上に早く訪れ、この日はそのまま眠りに就く。