第5章 真贋【*】
さっきまでの体勢が気に食わなかったのか、今は名無しが自身を押し倒して馬乗りの形になっている。
普段とは違う様子に媚薬でも盛られたかと確信しつつ後ろめたさを感じるが、今更止められはしない。
名無しから落される口付けと肌に感じる柔らかな感触に劣情が掻き立てられる。
自身も酒が入っているせいかいつもより理性は効かず、すぐに身体が反応してしまう。
それに気付いたのか、名無しの唇が離れたかと思うと今度は猛った自身を口に含み愛撫し始めた。
「…っ、随分と可愛い事をするな…」
顔に掛かる髪をどける様に撫でれば、瞳を閉じながら小さな口で頭をゆっくりと動かす姿に自然と熱い息が漏れる。
乱れた服から覗く白い肌がやけに色っぽく感じ、つい魅入ってしまう。
肌に感じる感覚と視覚からの刺激が相まってかいつも以上に身体が敏感に反応する。
***
普段と違う従順な姿もそうだが、今の顔は今まで見たどんな表情よりも柔らかくて、まるで愛しい者を見る様なそんな瞳をしていた。
さっき自分を助けた時の様な作り物の笑顔ではなく、名無しの本来の姿を見た様な気がした。
正直なところ、見なければ良かったとも思った。
こんな事になるのならばあのまま部屋に戻れば良かったと今更ながらに後悔したが、もう後の祭りだ。
今この状態で止められる程、自分は紳士でもなければ善人でもない。
「んんっ、あっ…」
名無しの手を引き自身に跨らせ、そのまま腰を掴んで下ろさせる。
自身をきつく包み込む感覚に熱い息が漏れ、無意識に腰を掴んでいる手に力が入る。
床に手をつき、啄ばむ様な口付けを落としながら自ら腰を動かす姿はまた格別で、今すぐにでも欲望のままに抱きたかった。
さっきまでの後ろめたさなど、もうどこかへ行ってしまった。
「んぁ、はっ…!あ…っ」
「はぁ…!っ…、薬なんか盛られおって…。女なんだから、もう少し危機感ぐらいは持つんだな。ワシも男だぞ…っ」