第4章 夢の中に生きる者
「貴女にそんなにも想われているなんてとても素敵な人だったのね」
「…とても優しくて、家族を大切にする人でした。本当に私には勿体無いぐらい」
「ふふ。貴女にもまたいつの日にか、本当の貴女を心から愛してくれる方がきっと現れるわ。もし、また辛くなった時は一人で何でも抱え込まずいつでもいらっしゃい。
名無し、人は愛される事から愛する事を学ぶわ。これだけは決して忘れては駄目よ。…そろそろ皆が起きてしまうわ。貴女も着替えてらっしゃい」
そう言い、微笑みながら頭を撫で部屋へと戻って行ったミトさんの後姿をじっと見つめる。
泣く事を許してくれた事が嬉しかった。
今まで心の奥底に誰にも気付かれぬ様に溜め込んでいた分、たくさん泣いて、気持ちも随分と楽になり落ち着いた。
***
「あなたと言う方は…。女性同士の話に聞き耳を立てるなんて関心しませんよ」
「外の空気を吸おうと部屋から出たら話し声が聞こえてな。そう怒るな。美しい顔が台無しぞ」
「まったく…。あの子は私達が思う以上に女性として辛い人生を歩んでいます。どうにか救ってあげられたらいいのですが…、その役目は私ではなく、本当のあの子を愛してくれる方にしか出来ません。ですから、あまり名無しをからかわないで下さいな」
少しご立腹な様子の許嫁を見てその姿さえも愛おしいと思う自分は相当ミトに惚れ込んでいる様だ。
ミトの優しさの奥にある強い心は誰しもの心を癒し導いて行く。
自分も名無しも例外ではない。
まるで、教えを説く偉大な人物の様にも感じる。
名無しも千手一族の者ではないミトに対しては全面的に信頼を置いており、今回の様に弱さを曝け出す事の出来る唯一の人物だ。
自分や扉間の前とは態度が真逆と言っていい程違うし、随分と物腰も柔らかく素直になる。
ミトも名無しの事を妹の様に可愛がっており、よく二人で話しているのを見掛ける。